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心理学ワールド 86号 小特集 乳幼児期の子育てと父親 ─父親研究を通して考える 森下 葉子(文京学院大学) | 日本心理学会

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Academic year: 2021

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23 小特集 父親の心理学 も明らかにされています。 諸研究における父親の育児関与  ①育児はどこまで?  父親による育児の重要性を示し たこれまでの研究では,「子ども と遊ぶ」「食事をする」「幼稚園 (保育所)の送迎」「入浴する」「着 替えを手伝う」等の育児行為の実 行頻度や「妻と子どものことを話 す」「妻と子育ての方針について 話し合う」等の妻と話し合う頻度 などから父親の育児を捉えられて きました。しかし,本当にこれで 「育児」を捉えきれるのでしょう か。例えば子どもと食事をするに は,献立を考え,食材を揃え,調 理し,食卓に料理を並べ,食後は 後片付けをする……等,「子ども と食事する」の前後には細かな 行為が付随します。同じ頻度で あっても,妻が前後の支度を整 えている場合と自分で全てを担 う場合とでは関与度合いは異な るでしょう。ラムら(1987)は, 父親の育児関与には「interaction (相互交流)」「availability(有効 性)」「responsibility(責任)」の 3つの要素があると述べていま す(Lamb, Pleck, Charnov, & Levine,1987)。遊びや世話のほ かに,子どもが望んだ時に関わ れるような姿勢でいること,稼 得や将来の保障も父親の育児と 捉えるのです。また,父親の育 児関与尺度(inventory of Father 内のルールを構築したり見直した りすること,子どもを中心とした 生活への適応などが課題となりま す。時間やエネルギーの大半が子 どもに注がれるようになり,仕事 と家庭のバランスの再調整,夫婦 間での役割分担が求められます。  この時期の養育者との関わりや 愛着形成が子どもの発達にとって 重要であることは言うまでもあり ません。父親の育児関与に関する 研究でも,乳幼児期に父親が積極 的に遊びや世話をすることが子ど もの社会性の発達や社会生活能力 を促すことが示されています(例 えば,加藤・石井・牧野・土谷, 2002;尾形,1995)。  主たる養育者である母親が育児 ストレスや不安,孤独感を感じや すい時期でもあります。夫が妻の 話を聴いたり,育児にまつわる 様々な感情を共有したり,子ども について共に考えたりすることが 妻の育児ストレスや不安の軽減に つながり,安定した母子関係が形 成・維持され,子どもの発達に間 接的に影響することが明らかにさ れています。子どもへの直接的な 関わりだけでなく,母親への心理 的サポートも父親の重要な役割と されています。  このような乳幼児期の父親の直 接的・間接的な関わりは,児童期 以降の子どもの学校への適応や対 人関係,学業成績に影響すること  筆者が父親による育児を卒業論 文で扱ってから20年近く経ちま した。その間,女性の社会進出や 核家族化等の社会の変化を受け て,父親も積極的に育児に関わる ことが求められるようになりまし た。2000年代には,そうした父 親を表す「イクメン」という言葉 が浸透し,男性の育児休業取得率 の目標値が掲げられ,自治体や企 業でも男性の育児関与を促進する ための取組みが求められるように なりました。朝,スーツ姿に抱っ こ紐で子どもを抱き,両手に大き な荷物を抱えて乗車する男性。夕 暮れ時のスーパーで保育園帰りの 子どもの手を引きながら,お惣菜 を選んでいる男性。休日の公園で 子どもと一緒にダンゴムシを探す 男性。そうした男性の姿を日常で もごく自然に見られるようになり ました。 乳幼児の育ちと父親  そうした社会の変化のなか,母 子研究が中心だった発達心理学や 家族社会学,家族心理学等さまざ まな分野において,欧米から20 年ほど遅れて1980年代後半から 徐々に父親に関する研究が蓄積さ れるようになりました。その多く は乳幼児を育てる家庭を対象にし たものです。  子どもが誕生し,第1子が就学 するまでの家庭では,夫婦それぞ れが親役割を受容すること,家庭

乳幼児期の子育てと父親

─ 父親研究を通して考える

文京学院大学人間学部 准教授

森下葉子

(もりした ようこ) Profile─森下葉子 2008年,東京学芸大学大学院連合教育学研究科修了。博士(教育学)。2017年より 現職。専門は保育学,幼児教育学,発達心理学。著書は『父親の心理学』(分担執筆, 北大路書房),『家庭と仕事の心理学』(分担執筆,風間書房)など。

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24 Involvement: IFI)を作成した研 究では,①しつけたり物事を教え たりする責任,②学校でのこと を励ます,③配偶者へのサポー ト,④経済的保障,⑤子どもと共 に過ごす時間の確保,⑥子どもに 愛情を伝える,⑦子どもの才能を 育てたり将来を考えたりする,⑧ 読書や宿題のサポート,⑨子ども の生活への関心の9つの視点から 父親の育児関与を捉えています (Hawkins, Bradford, Palkovitz,

Christiansen, Day, & Call, 2002)。日本の研究でも,父親の 育児や家庭への関わりを「協同育 児」や「家族する」という視点か ら捉えている研究もあります。青 木(2009)は,夫婦間で育児を連 携・調整し,育児行動の分担の衡 平さを示す「協同育児」という概 念を用いて,共働き家庭の夫婦間 の育児の分担について検討してい ます。「協同育児」には,夫婦間 の話し合いを中心とした「相互理 解・調整」,子どもの遊びに関す る分担を示す「遊び相手の分担の 衡平さ」,着替えや保育所への送 迎の分担を示す「世話分担の衡平 さ」という3因子が含まれていま す。また,大野(2016)は,家族 への関わりや関心などを示す8項 目で構成された「家族する」尺度 を作成しています(表1)。家族 に関心を持ち,一員として主体的 に関わる態度を捉えようとしてい ます。  ②量なのか質なのか  また,食事中に黙々と無言で食 べているのか,「美味しいね」な ど声をかけているのか,「こぼさ ないように!」と注意が多いのか 等,どのように子どもに働きかけ ているのか,子どもからの働きか けにどのように応答しているのか までは「頻度」だけでは捉えられ ません。子どもに対する父親の援 助的関わりが子どもの認知,言 語,社会情動面の発達に寄与する 等,父親の養育態度に関する研究 からは育児の頻度のみならずその 質も重要であることがわかりま す。父親の養育態度に関する研究 は母親に比べても少なく十分とは 言えません。今後,研究が積み重 ねられていくことを期待していま す。 おわりに  父親の育児関与についての研究 は「育児とは何か」を改めて考え る機会を与えてくれたと思ってい ます。育児は実に奥深く,子ども のことを考えたり,衣類を買い揃 えたり,オムツの残数を管理した り,学校のスケジュールの把握や 調整も育児の一部です。世話や遊 びにとどまらない管理や調整,生 活の保障等の「見えにくい育児」 をどこまで拾いあげるのか,それ らをどのような尺度で測定するの か等,議論の余地は十分ありそう です。  また,共働き家庭の増加に伴 い,0歳代から保育所に通う子ど もも増えています。家事の代行 サービスやベビーシッターを利用 する家庭もあります。子どもたち が育つ場が家庭内外で多様化する 今,改めて家庭における父親や母 親の役割,在り方について考えて いかなければならないと考えてい ます。 文 献 青木聡子(2009)幼児をもつ共働き 夫婦の育児における協同とそれに 関わる要因:育児の計画における 連携・調整と育児行動の分担に着 目して. 発達心理学研究, 20 , 382-392. Hawkins, A. J., Bradford, K. P., Palkovitz, R., Christiansen, S. L., Day, ar. Ad., & Call, V. R. A.(2002)The inventory of father involvement: A pilot study of a new measure of father involvement. The Journal of Men's Studies, 10 , 183-196. 加藤邦子・石井クンツ昌子・牧野カ ツコ・土谷みち子(2002)父親の 育児かかわり及び母親の育児不安 が3歳児の社会性に及ぼす影響: 社会的背景の異なる2つのコホー ト比較から. 発達心理学研究, 13 , 30-41.

Lamb, M. E., Pleck, J. B., Charnov, E. L., & Levine, L. A.(1987)A biosocial perspective on paternal behavior and involvement. In Lancaster, J. B.(Ed.) Parenting across the life span: Biosocial dimensions . Aldine Publishing. pp.111-142. 尾形和男(1995)父親の育児と幼児 の社会生活能力:共働き家庭と専 業主婦家庭の比較. 教育心理学研 究, 43 , 335-342. 尾形和男(編著)(2011)『父親の心 理学』北大路書房 大野祥子(2016)『「家族する」男性 たち:おとなの発達とジェンダー 規範からの脱却』東京大学出版会 表 1 「家族する」尺度(大野,2016) 1.家族が自分にどうしてほしいかを考えて行動する 2.家族の好みを把握している 3.家の中で何がどこにしまわれているか,よく知らない(逆転項目) 4.その日の家族の予定はだいたい把握している 5.自分が困った時は家族の誰かに助けを求める 6.家族の今の状況や気持ちについて,自分から積極的に尋ねて知ろうとする 7.自分の今の状況や気持ちについて,積極的に家族に伝える 8.毎日がマンネリにならないよう,工夫や努力をする

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